講師紹介 >> 井上真智子

大学から飛び出し、地域や社会を見よう!

自分が医学生だった頃を思い出すと、ずいぶん波乱があった。自由な一人暮らしと部活を楽しんでいた2年生のある日、母の乳がんがわかり、急遽、頻繁に実家の母に付き添わなければならなくなった。初期だったはずのがんが、治癒が望めない状態とわかった。訪問診療も訪問看護も何もない時代、家族だけで自宅療養を支え、最期はホスピスで看取ることとなった。診断から9カ月、あっという間の出来事だった。病院でのキュアを目指した治療と、最期の緩和ケアとは完全に分断されていた。
今でこそスピリチュアルペインという名がついて認識されているが、その後「なぜ母は死ぬことになったのか」問い続けることになった。医学生という立場も特に強くそうさせたかもしれない。大学の授業では人の生死を、「リアルに生きた人」でなく、数や確率や症例として扱う。大学で起きていることは、自分にとって切実な「生死」の問題からあまりに遠かった。そこで、その個別の苦しみに寄り添ってくれる教会での活動に参加した。地域で暮らす老若男女、子どもたちとの交流を通し、少しずつ「生きること・死ぬこと・生活すること」を受け止めることができた。
その後、最先端の緩和ケアを学ぶべく英国ホスピスでの見学実習に行き、また難民の苛酷な環境を知るためにケニアの難民キャンプを訪問した。学生時代で強く印象に残っているのは、大学の中のことでなく外での経験である。今、私は大学教員として講義を行っているが、本当は学生には大学の中で同世代だけと交わるよりも、地域に出てさまざまな人生に出会って、広い視野を身につけて欲しいと思っている。
We can’t always cure, but we can always care. キュアできなくても、ケアすることはいつだってできる。このサマーキャンプが、医師としての方向性を見いだすきっかけとなれば幸いである。